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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)13334号 判決

大阪市淀川区野中南二丁目一一番四八号

原告

日本ピラー工業株式会社

右代表者代表取締役

岩波清久

右訴訟代理人弁護士

深井潔

右補佐人弁理士

鈴江孝一

鈴江正二

東京都港区芝大門一丁目一番二六号

被告

ニチアス株式会社

右代表者代表取締役

音馬峻

右訴訟代理人弁護士

中村稔

雨宮定直

辻居幸一

吉田和彦

飯田圭

右補佐人弁理士

平井正司

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、別紙目録(一)ないし(八)記載の各グランドパッキンを製造・販売してはならない。

二  被告は、一項記載のグランドパッキンに使用される別紙目録(九)及び(一〇)記載の編み糸を製造・販売してはならない。

三  被告は、その占有している一項記載のグランドパッキン、二項記載の編み糸及びこれら物件の販売又は宣伝のためのカタログ等の配布物を廃棄せよ。

四  被告は、二項記載の編み糸の製造に供される設備を除却又は廃棄せよ。

五  被告は、原告に対し、金四七二五万円及びこれに対する平成八年一月一一日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  基礎となる事実(いずれも争いがないか弁論の全趣旨により認められる。)

1  原告の特許権

原告は、次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。

(一) 発明の名称

グランドパッキン用編み糸およびグランドパッキン

(二) 出願日

平成二年五月一六日(特願平二-一二七八一八)

(三) 公開日

平成四年一月二九日(特開平四-二五六七一)

(四) 公告日

平成六年四月一三日(特公平六-二七五四六)

(五) 登録日

平成八年一月一一日

(六) 特許番号

第二〇〇八四一六号

(七) 特許請求の範囲

本件特許権の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、本判決添付の特許公報(以下「本件特許公報」という。)の該当欄記載のとおりである(以下、同特許請求の範囲欄中、【請求項1】記載の特許発明を「本件発明1」と、【請求項2】記載の特許発明を「本件発明2」といい、両者を併せて「本件発明」という。)。

2  本件発明の構成要件の分説

本件発明の構成要件は、次のとおり分説するのが相当である。

(一) 本件発明1について

A 脆性材料である膨張黒鉛テープを編み糸とすべく長手方向に山折り、谷折りの少なくともいずれか一方に折りたたんで塑性変形させた折畳層構造の紐状体と、

B この紐状体の外周全体を被覆するニット編み又は編組体によってなる第1補強材および前記折畳層間に長手方向に沿って配置される糸状の第2補強材の少なくともいずれか一方

C との複合構造で編み糸を形成したこと

D を特徴とするグランドパッキン用編み糸

(二) 本件発明2について

A 脆性材料である膨張黒鉛テープを編み糸とすべく長手方向に山折り、谷折りの少なくともいずれか一方に折りたたんで塑性変形させた折畳層構造の紐状体と、

B この紐状体の外周全体を被覆するニット編み又は編組体によってなる第1補強材および前記折畳層間に長手方向に沿って配置される糸状の第2補強材の少なくともいずれか一方

C との複合構造で編み糸を形成し、

D この編み糸を複数本集束して編組又は撚り加工したこと

E を特徴とするグランドパッキン

3  被告の行為

(一) 被告は、平成三年九月ころから平成六年九月末ころまでの間、その製造に係るグランドパッキン用編み糸を使用して、グランドパッキン(製品名・トンボNo.二二三〇・シールワン三五〇及びトンボNo.二二四〇・シールワン六〇〇)を製造・販売した(以下、この編み糸を「被告旧編み糸」、このグランドパッキンを「被告旧グランドパッキン」という。)

(二) 被告は、平成六年一〇月以降、(一)とは製造工程を変更したグランドパッキン用編み糸を使用して、グランドパッキン(製品名は(一)に同じ。)を製造・販売している(以下、この編み糸を「被告新編み糸」、このグランドパッキンを「被告新グランドパッキン」という。)。

4  原告による警告

原告は、被告に対し、本件特許権の出願公開日の後である平成四年二月二四日到達の内容証明郵便をもって、本件特許権が出願公告された際には補償金請求を行う旨の通知をした。

二  原告の請求

本件は、原告が、被告に対し、被告新旧編み糸は本件発明1の、被告新旧グランドパッキンは本件発明2の各技術的範囲に属するから、それらの製造・販売は本件特許権を侵害するとして、〈1〉本件特許権に基づき、それらの製造・販売の差止め及び廃棄、それらの販売等のためのカタログ等の廃棄及びそれらの製造のための設備の除却を求めるとともに、〈2〉特許法六五条に基づく補償金請求、〈3〉本件特許権の出願公告による仮保護の権利の侵害に基づく損害賠償を各請求した事案である。

三  争点

1  被告新旧編み糸及び被告新旧グランドパッキンの特定。

(一) 被告新旧編み糸は、製造工程中のどの時点のものを特定すべきか。

(二) 被告新旧編み糸及び被告新旧グランドパッキンの具体的構成。

2  被告新旧編み糸は本件発明1の、被告新旧グランドパッキンは本件発明2の各技術的範囲に属するか。

(一) 被告新旧編み糸及び被告新旧グランドパッキンは、本件発明1及び2の各構成要件Aの「折畳層構造」を充足するか。

(二) 被告新旧編み糸及び被告新旧グランドパッキンは、本件発明1及び2の各構成要件Bの「第1補強材」を充足するか。

3  被告が補償金支払義務又は損害賠償責任を負う場合、原告に支払うべき補償金及び賠償すべき損害の額

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(被告新旧編み糸及び被告新旧グランドパッキンの特定)について

【原告の主張】

被告旧編み糸は別紙目録(九)、被告旧グランドパッキンは別紙目録(一)ないし(四)の構造の物として特定すべきである。また、被告新編み糸及び被告新グランドパッキンも同様に特定すべきであるが、仮にそうでないとしても、被告新編み糸は別紙目録(一〇)、被告新グランドパッキンは別紙目録(五)ないし(八)の構造の物として特定すべきである。なお、被告が特定として主張する物件目録との対応関係は、別紙物件対応表のとおりである。

1 本件発明1及び2の「編み糸」の形成(完成)時期は、以下の理由により、グランドパッキンの編組前、編組時、編組後のいずれの場合であっても差し支えないものと解すべきである。

(一) 本件発明1及び2の特許請求の範囲においては、それぞれ、「編み糸を形成した」、「編み糸を形成し、この編み糸を複数本集束して編組または撚り加工した」と記載しているだけであって、編み糸の形成時期と編組又は撚り加工の時期との関係は全く限定されていない。

(二) 本件発明1及び2は、グランドパッキン用編み糸及びグランドパッキンという「物」の発明であって、この発明に記載された「編み糸」という用語は、当業者において、グランドパッキンの編組前、編組時、編組後のいずれの場合も使用され、いずれの状態であっても編み糸として認識されている。

(三) 本件発明に記載された編み糸は、編組又は撚り加工時に起こる膨張黒鉛テープの層間すべりを防止するために形成するものであるところ、脆性材料である膨張黒鉛テープを長手方向に折り畳んで塑性変形させた折畳層構造の紐状体と、この紐状体の外周全体を被覆する第1補強材との複合構造の編み糸でさえあれば、編組又は撚り加工前に形成されていようと編組または撚り加工時に形成されていようと、編組又は撚り加工時の膨張黒鉛テープの層間すべりは防止され、膨張黒鉛テープの切断も防止されて封止機能も向上するのであるから、編組又は撚り加工時に、編組機による強い引張力、撚り力、方向転換部でのしごき等により、上記編み糸が形成された場合も含まれると解すべきである。

(四) 本件発明1は、平成四年八月七日付手続補正書(乙20)によって、本件発明2からそのまま抜き出して独立の請求項としたものである。したがって、本件発明2に記載された編み糸を解釈した上で、本件発明1のグランドパッキン用編み糸を解釈すべきものであり、本件発明1のグランドパッキン用編み糸を先に解釈し、そこから本件発明2に記載された編み糸を解釈するという方法をとるべきではない。

2 被告新旧グランドパッキンの断面構造の分析結果からすると、被告新旧編み糸は、少なくとも編組又は撚り加工時又はその後において、膨張黒鉛テープが折り畳まれ、その外周のみを金属製の袋編み編組体が被覆している構造となっているのであるから、被告新旧編み糸は別紙目録(九)、被告新旧グランドパッキンは、同(一)ないし(四)のように特定すべきである。

3 仮に本件発明における「編み糸」の形成時期を、被告主張のように編組前に限定するとしても、以下の理由により、なお2と同様に特定すべきである。

(一) 被告新編み糸及び被告新グランドパッキンについて

被告が開示する新編み糸及び新グランドパッキンの製造工程は、〈1〉膨張黒鉛テープのステンレス線による袋編み、〈2〉編み糸の折曲機によるV字加工、〈3〉編み糸のボビンへの巻き取り、〈4〉編み糸の編組機(ブレーダー)による八つ編み、〈5〉編まれたグランドパッキンのロールによる型付けから成る。

ところで、補強材は、直径〇・〇八mmのステンレス線一六本の袋編みで形成されているのであるが、脆性材料である厚さ約〇・三八mm、幅約七mmの膨張黒鉛テープとの物理的形状の違いにより、両者の一体結合化の維持はそもそも不可能である。そのため、〈2〉のV字加工時の一瞬間においては、折り畳まれたV字の間に補強材が折り込まれるサンドイッチ構造を形成するとしても、その直後には、補強材がV字内面から分離した形状となる。そして、〈3〉のボビンへの巻き取りの際に引張力が作用し、これに対する補強材と膨張黒鉛テープの長手方向への変形性の相違により、袋編み体はますますV字形内面から浮き上がり、V字形に折り畳まれて塑性変型された膨張黒鉛テープの外周のみを被覆する構造となって、ボビンに巻き取られる。この構造は、ボビンに巻き取られた状態及び編組される直前のキャリアーによる引張力が加わった状態の被告新編み糸の断面構造の分析結果(甲17)から明白である。

次に、〈4〉〈5〉の編み組工程において、編み糸には更に強い引張力やしごき力が加わり、補強材はV字形内面からますます外に出されて膨張黒鉛テープの外周全体のみを覆う形状となり、膨張黒鉛テープは塑性変型させた折畳構造となる。この構造は、新編み糸を編組機に使用されるのと同様の引張力でキャリアーに通過させた後の断面構造の分析結果(甲17)及び被告新グランドパッキンの断面構造の分析結果(甲19)から明白である。

したがって、被告新編み糸及び被告新グランドパッキンについては、編み組前の時点をとらえるとしても、2と同様に特定すべきである。

(二) 被告旧編み糸及び被告旧グランドパッキンについて

被告は、被告旧編み糸は、被告新編み糸と〈2〉の工程がない点で異なり、折畳構造でないと主張している。

しかし、幅約七mmもの編み糸に折り畳み等の工程を加えずにそのまま編組したとすれば、膨張黒鉛テープは多数の箇所でランダムに切断されフレーク状となり、この種の商品として求められる品質とはほど遠いものになるはずであり、被告も別の実用新案登録出願(甲16)に見られるとおり、幅六mm以上の膨張黒鉛テープを使用する場合には折り畳むことが必要であると認識していた。

また、被告旧グランドパッキンの分析結果(甲5、13)においても、編み糸は折り畳まれて外周全体のみが補強材によって被覆されている構造となっているが、このような構造は、製造工程において編み糸を折り畳んで外周全体のみを補強材で被覆する構造としておかなければ生じない。そして現に、被告が開示した被告旧編み糸及び被告旧グランドパッキンの製造工程(乙2)においても、編組機によって編まれる直前においては、ボビンに巻かれた平らな編み糸が編組機の方向転換部において強い引張力と当てつけを受けて約半分に折り畳まれて塑性変型している。

したがって、被告旧編み糸及び被告旧グランドパッキンについても、仮に編組前の時点をとらえるとしても、2と同様に特定すべきである。

4 仮に被告新編み糸及び被告新グランドパッキンについて、折畳層間に補強材が介在している構造であるとした場合には、被告新編み糸については別紙目録(一〇)、被告新グランドパッキンについては同(五)ないし(八)のとおり特定すべきである。

【被告の主張】

被告旧編み糸は別紙旧イ号物件目録、被告旧グランドパッキンは別紙旧ロ号物件目録ないし旧ホ号物件目録記載の構造の物として特定すべきである。また、被告新編み糸は別紙イ号物件目録、被告新グランドパッキンは別紙ロ号物件目録ないしホ号物件目録記載の構造の物として特定すべきである。

1 本件発明1及び2の「編み糸」の形成(完成)は、以下の理由により、グランドパッキンの編組又は撚り加工の前になされている必要があると解すべきである。

(一) 本件発明1と本件発明2とは、編み糸の構造を共通にしており、本件発明1は、そのようなグランドパッキン用編み糸そのものを対象としているのに対して、本件発明2は、そのようなグランドパッキン用編み糸を「複数本集束して編組または撚り加工した」グランドパッキンを対象としている。このような特許請求の範囲の各記載からすれば、本件発明1のグランドパッキン用編み糸を複数本集束して編組又は撚り加工したグランドパッキンが本件発明2である。したがって、グランドパッキンの編組又は撚り加工の前に、本件発明1のグランドパッキン用編み糸が形成されていなければならない。

(二) 本件特許権は、本件発明1のグランドパッキン用編み糸の構成に特徴を有するものである。

すなわち、本件発明1のグランドパッキン用編み糸は、公知技術では考えもされなかった「脆性材料である膨張黒鉛テープそのもの」を、脆性を維持したまま「折りたたんで塑性変形させた折畳層構造の紐状体」を形成することによって、紐状体の折畳層間にすべりを生じないようにし、加えて、「この紐状体の外周全体を被覆する…第1補強材」との複合構造という構成によって、紐状体と補強材との一体結合力を高めて、層間すべりによる補強材の偏在及び補強材と紐状体との分離を抑制して、編み糸としての強度及び保形性を著しく向上させることができるということで、特許が付与されたものである。そして、本件発明2のグランドパッキンは、本件発明1のグランドパッキン用編み糸を複数本集束して編組又は撚り加工してグランドパッキンを構成しているので、編組又は撚り加工によるグランドパッキンの製造を容易にできるという作用効果を有することで特許が付与されたものである。

したがって、本件発明1のグランドパッキン用編み糸を複数本集束して編組又は撚り加工したグランドパッキンが本件発明2であり、グランドパッキンの編組又は撚り加工の前に、本件発明1のグランドパッキン用編み糸が形成されていなければならない。

(三) 本件発明に係る編み糸は、細幅に切断した膨張黒鉛テープを複数枚重ね合わせて層を形成している編み糸を最も近い従来技術とし、このような編み糸の課題として、編組又は撚り加工の時に膨張黒鉛テープの層間にすべりが生じてしまうことを認識し、広幅の膨張黒鉛テープを折り畳んで折畳層構造の紐状体を形成することにより、このような課題を解決したものである。それゆえ、編組又は撚り加工の時の膨張黒鉛テープの層間すべりの防止ということは、編組又は撚り加工の前に、すなわち、遅くとも編組又は撚り加工がまさに開始される時点には、広幅の膨張黒鉛テープを折り畳んで折畳層が形成されており、これにより編組又は撚り加工の時の膨張黒鉛テープの層間すべりが防止されることを意味しているものである。

したがって、原告の主張するように、いつまでに編み糸を形成すれば編組又は撚り加工の時の膨張黒鉛テープの層間すべりが防止されることになるのかによって判断するのであれば、「編み糸を形成し、この編み糸を複数本集束して編組又は撚り加工した」とは、むしろ、本件発明2のグランドパッキンの編組又は撚り加工の前に、すなわち、遅くとも編組又は撚り加工がまさに開始される時点には、紐状体と第1補強材との複合構造を有する本件発明1のグランドパッキン用編み糸が形成されていなければならないことを意味しているものと解するのが合理的である。

(四) 本件訴訟の対象物件であるグランドパッキンを製造するために使用されてきた編組機は、いずれも、当該グランドパッキンを製造するための設計変更等は、何ら施されておらず、従来からの石綿パッキンの製造に使用されるような編組機をそのまま使用してきたものにすぎない。言い換えれば、本件訴訟の対象物件であるグランドパッキンの製造工程においては、膨張黒鉛テープを折り畳むための格別の工程ないし装置は、全く採用されていない(乙18)。

このような編組機を使用して、本件発明1を実施した編み糸を形成し、これにグランドパッキンの形成の際の外力を負荷したものと、公知技術を実施した編み糸(膨張黒鉛シート二枚を重ね合わせ、この紐状体の外周全体をステンレス線の編組体で被覆したもの)を形成し、これに同様の外力を加えたものとを比較した場合、両編み糸の断面形状は、ほとんど同じものになってしまう(乙27)。つまり、グランドパッキンの編組の際に外力が加えられると、紐状体は、膨張黒鉛シートという脆性材料から成るため、これが二つ折りであろうと、二枚重ねであろうと、膨張黒鉛シートの層間が密着され、両者の構造はほとんど同一となる。

したがって、本件発明における編み糸の形成が、グランドパッキンの編組等の工程における変形という後発的かつ偶発的な現象によるものでもよいとすれば、本件発明は、公知技術を含むことになってしまう。

2 右を前提に、被告新旧編み糸及び被告新旧グランドパッキンは、前記のように特定すべきである。

(一) 被告新編み糸及び被告新グランドパッキンについて

被告新編み糸は、脆性材料である厚さ約〇・三八mm、幅約七mm、長さ約三〇m又は約五〇mの膨張黒鉛テープと、前記膨張黒鉛テープの脆性を補強するために、直径約〇・〇八mmのステンレス線一六本で袋編みして、前記膨張黒鉛テープの全体を被覆した補強材とからなる複合材料の糸の幅方向のほぼ中心を長手方向に内側を開放してほぼV字形に折り曲げて成形した編み糸であって、折曲方向において弾性を保持しているものである。また、被告新グランドパッキンは、いずれも、被告新編み糸により編組されたものであるため、基本的に、膨張黒鉛テープと、その全体をステンレス線により被覆した補強材とから成る複合材料の糸の幅方向のほぼ中心を長手方向にほぼV字形に折り曲げて形成した被告新編み糸の構造が維持されたまま、被告新グランドパッキンが編組されることとなる。

(二) 被告旧編み糸及び被告旧グランドパッキンについて

被告旧編み糸は、脆性材料である厚さ約〇・三八mm、幅約七mm、長さ約三〇m又は約五〇mの膨張黒鉛テープ2と、前記膨張黒鉛テープ2の脆性を補強するために、直径約〇・〇八mmのステンレス線3一六本で袋編みして、前記膨張黒鉛テープ2の全体を被覆した補強材4とから成る複合材料の糸である。また、被告旧編み糸により編組された被告旧グランドパッキンにおいても、基本的に、膨張黒鉛テープと、その全体をステンレス線により被覆した補強材とから成る糸の構造が維持されるものである。

(三) 被告新旧編み糸及び被告新旧グランドパッキンの構造が、被告主張のとおりであることは、原告が指摘する被告新旧グランドパッキンの断面構造の分析(甲4、5)からしても肯定し得るところであり、原告主張のような断面構造は、グランドパッキンの編組等の工程において後発的かつ偶発的に生じる変形の結果にしかすぎないものである。

二  争点2(被告新旧編み糸は本件発明1の、被告新旧グランドパッキンは本件発明2の各技術的範囲に属するか)について

【被告の主張】

1 以下の理由により、本件発明1の構成要件Aのうち、「脆性材料である膨張黒鉛テープを…折りたたんで塑性変形させた折畳層構造の紐状体」という要件は、膨張黒鉛テープのみを脆性が維持されたままの状態で、折り畳み面同士を密着させて一つの塊的な一体化物とすべく、そのまま折って重ね合わせていることを意味するものと解すべきである。

また、同様に、本件発明1の構成要件Bのうち、「この紐状体の外周全体を被覆するニット編みまたは編組体によってなる第1補強材」という構成要件は、第2補強材とは異なり、第1補強材が折畳層構造の紐状体のまさに外周全体のみに覆い被さっていることを意味するものと解すべきである。

(一) 構成要件Aについての特許請求の範囲の記載からして、「紐状体」が「脆性材料である膨張黒鉛テープ」を「折りたたんで塑性変型させた折畳層構造」を有していることは明らかであり、脆性材料である膨張黒鉛テープそのものをそのまま折って重ね合わせることが構成要件とされている。

また、構成要件Bについての特許請求の範囲の記載からして、「ニット編みまたは編組体によってなる第1補強材」は、折畳層構造の「紐状体の外周全体」を「被覆」していること、すなわち、第1補強材は、折畳層構造の紐状体のまさに外周全体のみに覆い被さっているものであることは明らかである。

また、このように、第1補強材はニット編み又は編組体で紐状体の外周全体を被覆するものであり、これに対し、第2補強材は糸状で紐状体の折畳層間に配置されるものであるから、両者の対照的配置からすると、第1補強材は、第2補強材とは異なり、折畳層間に配置されず、外周全体のみを被覆するものと解すべきである。

原告は、被告出願にかかる特開平五-一〇六七四一号公報(甲15)、実公平七-八九二八号公報(甲16)の各記載を根拠として、被告も原告の解釈を前提としていると主張するが、両公報の記載は、むしろ被告の主張に沿うものである。

(二) 本件明細書における従来技術、本件発明の解決課題又は目的、本件発明の作用効果に関する各記載及び実施例の開示からすると、本件発明1のグランドパッキン用編み糸は、細幅に切断した複数枚の膨張黒鉛テープの重ね合せ構造の紐状体を備えているグランドパッキン用編み糸とは異なり、簡単には折り畳めない「脆性材料である膨張黒鉛テープを…折りたたんで塑性変形させた折畳層構造の紐状体」という構成によって、膨張黒鉛テープから成る紐状体の折畳層間にすべりを生じることがないという作用効果を奏し、それに加えて、「この紐状体の外周全体を被覆する…第1補強材」との複合構造という構成によって、紐状体と補強材との一体結合力を高めて、層間すべりによる補強材の偏在及び補強材と紐状体との分離を抑制して、編み糸としての強度及び保形性を著しく向上することができるという作用効果を奏する点に特徴があり、このようなグランドパッキン用編み糸のみが実施例として開示されている。

したがって、このような本件明細書の記載からして、構成要件Aの「紐状体」は、脆性材料である膨張黒鉛テープそのものを折畳層間にすべりを生じることがないようにそのまま(すなわち脆性を維持したまま)折って重ね合わせることを意味するものと解すべきである。

また、本件発明1の構成要件Bにいう「この紐状体の外周全体を被覆する…第1補強材」は、第2補強材と異なり、まさに紐状体の外周全体のみに覆い被さっているものであることも明白である。

(三) 本件特許権は、その出願後、拒絶理由通知、それに対する意見書の提出、拒絶査定、手続補正、審判請求、拒絶理由通知、手続補正、出願公告、特許異議及び特許すべき旨の審決を経て登録されたものであるが、これらの出願経過の詳細からしても、本件発明1は、(二)記載の点を発明の特徴として特許が付与されたものである。

(四) 被告新グランドパッキンは、被告の特許第二五八三一七六号(乙21)の実施品であるところ、その請求項1に係る発明(以下「被告発明」という。)は、本件発明を従来技術とし、それが抱える問題点を解決することを解決課題としている。この出願に対しては、本件発明の公開特許公報を引用文献の一つとして、特許法第二九条二項に基づき、「容易に発明をすることができた」ものとして拒絶理由通知がなされたが、これに対し、被告は、本件発明の構成は「膨張黒鉛テープだけを山折り、または谷折りに折り畳んだものの周囲を繊維で編み込み被覆したものを編み糸(ヤーン)にして、編組または束ねてひねり加工する等の方法で製造したグランドパッキンを開示したものである」、本件発明に係る「編み糸の断面は、…繊維編み袋体の中に膨張黒鉛テープが入っている構造となる」と意見を述べ(乙23)、被告発明との違いを指摘したことにより、被告発明は特許査定を得た。このように、特許庁も、本件発明の構成要件A及びBについて、被告の主張と同様の解釈をしていた。

(五) 発明の名称を「リング状パッキンおよびその製造方法」とする原告の特許出願に係る特公平七-一五三一一号公報(乙15)には、構成要件Aについての被告の主張と同じく、膨張黒鉛シート等のシート状パッキン材料をその長手方向に折り畳んで紐状体に形成する工程が意図的に採用されるものであることが明らかにされている。

また、原告の関連出願である特公平三-二五六六九号公報(乙16)、特公平二-五三六五九号公報(甲10)においては、構成要件Bについての被告の主張と同じく、いずれも編み糸を被覆する補強材が、積層体のまさに表面のみを袋のように覆い被さるものであるとされている。

2 そして、争点1に関する被告の主張の1(一)(二)で主張したことからすれば、本件発明2は、本件発明1の従属的発明であって、本件発明2の構成要件にいう「編み糸を形成し、この編み糸を複数本集束して編組または撚り加工した」とは、本件発明1のグランドパッキン用編み糸を編組又は撚り加工するということであると解すべきであるから、本件発明2の構成要件A及びBも1と同様に解すべきである。

3 被告新編み糸及び被告新グランドパッキンについて

(一) 被告新編み糸は、争点1に関する被告の主張のとおり、膨張黒鉛テープと、その脆性の補強のためにその全体をステンレス線により被覆した補強材とからなる複合材料をほぼV字形に折り曲げた糸であって、折り曲げ方向において弾性を保持しているものである。簡単には折り畳めない膨張黒鉛テープそのものを脆性が維持されたままの状態で、折り畳み面同士を密着させて一つの塊的な一体化物とすべく、折って重ね合わせているものではない。したがって、被告新編み糸は、「脆性材料である膨張黒鉛テープを編み糸とすべく…折りたたんで塑性変形させた折畳層構造の紐状体」という構成要件Aを充足していない。

また、被告新編み糸は、膨張黒鉛テープと、その全体をステンレス線により被覆した補強材とから成るものをほぼV字形に折り曲げた糸であって、補強材がV字形の内面にサンドイッチされているものである。被覆タイプの補強材が、折畳層構造の紐状体のまさに外周全体のみに覆い被さっているものではない。したがって、被告新編み糸は、「この紐状体の外周全体を被覆する…第1補強材」という構成要件Bを充足していない。

そして、被告新編み糸が本件発明1の構成要件A及びBを満たさない以上、被告新グランドパッキンも、本件発明2の構成要件A及びBを満たさない。

(二) また、作用効果からみても、被告新編み糸及びこれを編組することにより形成される被告新グランドパッキンが、本件発明1及び2の技術的範囲に属するものではない。

すなわち、本件発明は、簡単には折りたためない膨張黒鉛テープそのものを脆性が維持されたままの状態で折って重ね合わせることにより、膨張黒鉛テープがその端部で連続しているため、細幅に切断した膨張黒鉛テープを複数枚重ね合わせた構成よりも、膨張黒鉛テープの層間のすべりを防止できるという点に最大の特徴を有するものであるが、被告発明及びその実施品である被告新グランドパッキンでは、膨張黒鉛テープを繊維材からなる補強材で被覆した後に、幅方向に強制的に折り畳んだものを編み糸に用いているので、その編み糸は、黒鉛テープと補強材が折り畳み作用により一体結合化されたサンドイッチ構造となるとともに、弾力性に富み、かつ均一な細い編み糸とされているため、この編み糸で編組又は撚り加工して得られたグランドパッキンは、クッション性が増大し、圧縮復元率が大きく、かつ耐応力緩和性能が増大し、メンテナンスの回数が減少する等、すぐれた効果が発揮される。さらに、膨張黒鉛テープを補強材で被覆する工程及びその黒鉛テープ入り補強材を折り畳む工程は、簡単容易な作業であり、かつ連続的に行なえることから、パッキン製造作業性の向上並びに製造コストの低減が実現できる。このように、被告発明及びその実施品である被告新グランドパッキンでは、簡単には折り畳めない膨張黒鉛テープそのものを脆性が維持されたままの状態で折って重ね合わせるという困難で手間のかかる製造作業が不要であるとともに、膨張黒鉛テープと補強材が折り畳み作用により一体結合化されたサンドイッチ構造となるので、そもそも膨張黒鉛テープの層間のすべりを防止するということ自体が全く問題とならないのである。

4 被告旧編み糸及び被告旧グランドパッキンについて

被告旧編み糸は、争点1に関する被告の主張のとおり、膨張黒鉛テープと、その脆性の補強のためにその全体をステンレス線により被覆した補強材とから成る平らな編み糸であり、簡単には折り畳めない膨張黒鉛テープそのものを脆性が維持されたままの状態で、折り畳み面同士を密着させて一つの塊的な一体化物とすべく、折って重ね合わせているものではない。

したがって、被告旧編み糸は、「脆性材料である膨張黒鉛テープを編み糸とすべく…折りたたんで塑性変形させた折畳層構造の紐状体」という構成要件Aを充足していない。

また、被告旧編み糸は、膨張黒鉛テープと、その全体をステンレス線により被覆した補強材とからなる糸である。被覆タイプの補強材が、折畳層構造の紐状体のまさに外周全体のみに覆い被さっているものではない。したがって、被告旧編み糸は、「この紐状体の外周全体を被覆する…第1補強材」という構成要件Bを充足していない。

そして、被告旧編み糸が本件発明1の構成要件A及びBを満たさない以上、被告旧グランドパッキンも、本件発明2の構成要件A及びBを満たさない。

【原告の主張】

1 以下の理由により、本件発明1の構成要件A及びBを被告主張のように限定解釈するのは不当であり、構成要件Aの「折畳層構造」は、グランドパッキン用編み糸の構成(構造)の一部として、結果的に、少なくとも膨張黒鉛テープを折り畳んで塑性変形させた折畳層構造になっていればよいという意味に解すべきであり、構成要件Bの「第1補強材」は、折畳層の外周全体を被覆していれば足り、折畳層間に介在することを排除してはいない意味に解すべきである。

(一) 本件発明1は、特許請求の範囲に記載されているとおり、グランドパッキン用編み糸という「物」の発明であって、その「物」の一部を構成する紐状体についても構造を記載しているものである。そして、その紐状体の構造としては、「脆性材料である膨張黒鉛テープを…折りたたんで塑性変形させた折畳層構造」であればよいことであり、「膨張黒鉛テープそのものだけを折って重ね合わせる」ということまで限定しているものではない。

同様に、第1補強材についても、「紐状体の外周全体を被覆」していれば足りるのであり、「折畳層構造の外周全体のみを被覆する」ことまで限定しているわけではない。

このように、被告主張の限定解釈は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明に何らの限定的な記載もないことに基づく解釈である。

右の紐状体の記載の意味を、被告の主張のごとく「膨張黒鉛テープそのものだけを折りたたんで塑性変形させた折畳層構造」と解釈すると、本件発明1の中には第2補強材も記載しており、この第2補強材が折畳層間に配置することができず、全くつじつまの合わない記載内容となる。また、第2補強材は膨張黒鉛テープの折畳層間に配置させてもよいことからすれば、本件発明1は、補強材を膨張黒鉛テープの折畳層間に介在させることを排除していないのであり、第1補強材についても、そのような排除はしていない。

このような趣旨は、被告自身、その出願にかかる特開平五-一〇六七四一号公報(甲15)、実公平七-八九二八号公報(甲16)の各記載において前提としているところである。

(二) 被告は、発明の詳細な説明を参酌しているが、結局のところ、被告は、本件発明を実施例レベルの構成に限定させるべく、単に従来技術や実施例の構成を参酌しているにすぎず、本件発明1、2の本質を参酌しているものではない。したがって、その参酌の仕方は失当である。

(三) 被告は、本件発明の出願経過に基づき構成要件を限定解釈すべきであると主張するが、出願経過のどの部分がその根拠となるのかが不明である。また、出願過程において原告が行った補正も、被告主張の限定解釈を裏付けるものではない。

(四) 被告は、被告発明の出願経過を、本件発明の限定解釈の根拠として主張するが、特許庁は、被告発明が、本件発明から新規性及び進歩性を有する発明であれば、本件発明の技術的範囲に属していても特許するのであるから、被告発明が特許査定されたからといって、本件発明の構成要件を限定解釈する理由とはならない。被告発明は、本件発明の利用発明にすぎない。

(五) 被告は、原告の他の出願が本件発明1、2の技術的範囲を解釈する上で裏付けになると主張しているが、これらの原告の出願は、本件発明1、2の編み糸及びグランドパッキンを記載しているものではなく、また、本件発明1、2の製造方法を記載しているものでもなく、「物」としての構成も相違する全くの別出願であるから、本件発明1、2の技術的範囲を解釈する裏付けとなるものではない。

2 被告新編み糸及び被告新グランドパッキンについて

(一) 被告新編み糸及び被告新グランドパッキンは、争点1に関する原告の主張2及び3(一)のとおり特定されるべきである。これによれば、被告新編み糸は、「膨張黒鉛テープそのものだけを折りたたんで塑性変形させた折畳層構造」であり、かつ、「折畳層構造の外周全体のみを被覆する」構造になっているから、被告主張の解釈を前提としても、本件発明1の構成要件A及びBを満たす。

また、同様に、被告新グランドパッキンは、本件発明2の構成要件A及びBを満たす。

(二) 仮に被告新編み糸及び被告新グランドパッキンを、争点1に関する原告の主張4のとおり特定する場合であっても、被告新編み糸は、折畳層の間に袋編組体を挟みつつも膨張黒鉛テープを塑性変型させた折畳構造になっているのであるから、本件発明の構成要件A及びBを1のとおりに解すべき以上、本件発明1の構成要件A及びBを満たし、同様に被告新グランドパッキンは本件発明2の構成要件A及びBを満たす。

被告は、被告新編み糸及び被告新グランドパッキンには、折畳層間に袋編組体が介在していることによって、本件発明にはない作用効果があると主張するが、被告新編み糸及び被告新グランドパッキンは、その作用効果を除けば、本件発明1及び2の作用効果を奏しているのであるから、本件発明1及び2との間に利用関係に立つにすぎない。

3 被告旧編み糸及び被告旧グランドパッキンについて

被告旧編み糸及び被告旧グランドパッキンは、争点1に関する原告の主張2及び3(二)のとおり特定されるべきである。これによれば、被告旧編み糸は、「膨張黒鉛テープそのものだけを折りたたんで塑性変形させた折畳層構造」であり、かつ、「折畳層構造の外周全体のみを被覆する」構造になっているから、被告主張の解釈を前提としても、本件発明1の構成要件A及びBを満たす。

また、同様に、被告旧グランドパッキンは、本件発明2の構成要件A及びBを満たす。

三  争点3(被告が補償金支払義務又は損害賠償責任を負う場合、原告に支払うべき補償金又は賠償すべき損害の額)について

【原告の主張】

1 補償金請求

被告は、前記基礎となる事実4記載の通知の到達の翌日である平成四年二月二五日から、本件特許権の出願公告日である平成六年四月一三日までの二五か月間に、被告新旧グランドパッキンを合計九四五〇個、販売額合計金一億七〇〇〇万円、販売しているので、原告は被告に対し実施料相当額(三パーセント)である金五二五万円を補償金として請求する。

2 損害賠償請求

被告は、被告新旧グランドパッキンを平成六年四月一四日から約二〇か月間、月平均三九〇個、販売合計金一億四〇〇〇万円販売し、少なくとも三〇パーセントの純利益を得ているので、原告は右利益額の四二〇〇万円を損害金として請求する。

なお、原告は、本件発明自体を実施しているわけではないが、本件発明の侵害品である被告新旧グランドパッキンの競合商品を製造・販売しているのであるから、なお、特許法一〇二条一項が適用されるべきである。

【被告の主張】

原告の主張のうち、原告が被告に対し補償金請求を行う旨の通知をした点は認め、その余は争う。

原告は、本件発明を実施していないから、特許法一〇二条一項に基づく損害賠償請求をすることはできない。

第四  争点に対する当裁判所の判断

一  争点1(被告新旧編み糸及び被告新旧グランドパッキンの特定)について

1  まず、本件発明における編み糸は、グランドパッキンの製造工程におけるどの時点のものをとらえるべきかについて検討する。

(一) この点について、本件発明1の特許請求の範囲には明確な記載はないが、本件発明2の特許請求の範囲のうち構成要件AないしCは本件発明1と文言が同一である上、同D及びEには、「この編み糸を複数本集束して編組または撚り加工したことを特徴とするグランドパッキン」との記載がある。この文言からすれば、本件発明の編み糸は、編組又は撚り加工する前の状態をとらえているものと解するのが素直ではあるが、争点1に関する原告の主張に照らすと、これのみから直ちに右のように一義的に解することはできない。

(二) そこでさらに、甲1の本件明細書における発明の詳細な説明を参酌して検討するに、本件明細書には次のような記載がある。

(1) 従来のグランドパッキン用編み糸の問題点として、

〈1〉 細幅に切断した膨張黒鉛テープ1を糸状補強材2の外周にスパイラル状に巻回被覆した複合構造の紐状体3によって構成した編み糸(本件特許公報第12図)について、「膨張黒鉛シートを細幅に切断して、膨張黒鉛テープ1を形成する作業が困難である。しかも細幅の膨張黒鉛テープ1を糸状補強材2の外周に、単にスパイラル状に巻回被覆しただけのものであるから、両者1、2の一体結合力が小さく、保形性に劣るため両者1、2が分離し易い。このような保形性の悪い紐状体3では、グランドパッキンを製造するための編組または撚り加工が困難であるとともに、編組または撚り加工されたグランドパッキンの保形性が悪くなってパッキンの封止機能を低下させる。」(本件特許公報4欄16ないし25行目)

〈2〉 細幅に切断した膨張黒鉛テープ1の複数枚重ね合せによって紐状体3を形成し、その外周を繊維のニット編み又は袋編みなどの編組体補強材5で被覆した複合構造の編み糸4(本件特許公報第13図)については、「膨張黒鉛シートを細幅に切断して、膨張黒鉛シート1を形成する作業が困難であり、かつ膨張黒鉛テープ1が複数枚重ね合せられている紐状体3の層間に、相対移動、つまり層間すべりを生じる。このような、紐状体3に層間すべりの生じる編み糸4では、グランドパッキンを製造するための編組または撚り加工時に膨張黒鉛テープ1に切断が生じて、編組または撚り加工を困難にし、パッキンの封止機能を低下させる。」(本件特許公報4欄29ないし38行目)

〈3〉 細幅に切断した膨張黒鉛テープ1の複数枚重ね合せによって紐状体3を形成し、紐状体3の層間に長手方向に沿って複数の糸状補強材2を配置するとともに、紐状体3の外周を繊維のニット編み又は袋編みなどの編組体補強材5で被覆した複合構造の編み糸4(本件特許公報第14図)については、「膨張黒鉛シートを細幅に切断して、膨張黒鉛テープ1を形成する作業が困難であり、かつ膨張黒鉛テープ1が複数枚重ね合せられている紐状体3の層間に層間すべりを生じ、紐状体3と糸状補強材2との一体結合力が弱められているので、糸状補強材2が偏在し易い。そのために、強度の均一性が損なわれるおそれを有している。このような、層間すべりおよび糸状補強材2の偏在などが生じる編み糸4では、グランドパッキンを製造するための、編組または撚り加工時に膨張黒鉛テープ1に切断が生じて編組または撚り加工を困難にするとともに、強度が不均一になってパッキンの封止機能を低下させる。」(本件特許公報4欄44ないし5欄5行目)

〈4〉 複数本の糸状補強材2の両面に接着剤によって芋虫状の膨張黒鉛1Bを一体に接着した複合構成の編み糸4(本件特許公報第15図)については、「膨張黒鉛の高密度化および大きいサイズの製造が困難であるともに、複数の糸状補強材2が分離し易いなどの欠点を有している。」(本件特許公報5欄6ないし9行目)

(2) 本件発明の目的として、

〈1〉 「膨張黒鉛シートの切断による膨張黒鉛テープの形成作業及び編み糸の基体となる紐状体の形成作業が容易であるとともに、層間すべりがなく、強度が均一で、保形性に優れたグランドパッキン用編み糸を提供することを主たる目的としている。」(本件特許公報5欄10ないし15行目)

〈2〉 「上記のような編み糸を利用することによって、編組または撚り加工を容易にして、封止機能を大幅に向上することができるグランドパッキンを提供することにある。」(本件特許公報5欄16ないし19行目)

(3) 本件発明の効果として、

〈1〉 本件発明1のグランドパッキン用編み糸においては、

(a) 「紐状体を形成するための脆性材料である膨張黒鉛テープをその長手方向に山折り、谷折りの少なくともいずれか一方に折りたたんで塑性変形させた折畳層構造としているので、膨張黒鉛シートを細幅に切断しなくても、広幅に切断すればよく、膨張黒鉛テープの形成作業が容易であるとともに、複数枚のテープの重ね合せ構造ではなくて折畳層構造を採用したことにより、この膨張黒鉛テープから形成される紐状体の層間、つまり、折畳層間にすべりを生じることがない」(本件特許公報8欄47ないし9欄6行目)

(b) 「加えて、上記紐状体とその外周全体を被覆するニット編みまたは紐状体(「紐組体」は誤植であると考えられる。)によってなる第1補強材および折畳層間に長手方向に沿って配置される糸状の第2補強材の少なくともいずれか一方との複合構造に形成されているので、紐状体と補強材との一体結合力を高めて、層間すべりによる補強材の偏在および補強材と紐状体との分離を抑制して、編み糸としての強度および保形性を著しく向上することができる」(本件特許公報9欄7ないし14行目)

〈2〉 本件発明2のグランドパッキンについては、「上記したように層間すべりや偏在を生じにくい(「生じにくく」は誤植であると考えられる。)編み糸を複数本集束して編組または撚り加工してグランドパッキンを構成しているので、編組または撚り加工時に膨張黒鉛テープが切断することを回避して、編み糸の編組または撚り加工によるグランドパッキンの製造(「構造」は誤植であると考えられる。)を容易にできるとともに、強度の均一性を保って、封止機能の向上を図ることができる。」(本件特許公報9欄15ないし21行目)。

(三) これらの記載からすれば、本件発明1のグランドパッキン用編み糸は、膨張黒鉛シートの形成作業を容易にするとともに、層間すべりがなく、保形性が良くて強度が均一となる構造を採用することにより、グランドパッキンを製造するための編組又は撚り加工時の膨張黒鉛テープの切断を防止することを重要な目的としているものと認められる。そして、このように本件発明1の編み糸は、紐状体の形成時及び編組又は撚り加工時にその効果を発揮するものであるから、その構造は、遅くとも編組又は撚り加工の前に備わっていることを要するものと解するのが相当である。原告は、編組の前後を問わないと主張するが、右に照らし、採用し難い。

また、本件発明2のグランドパッキンは、右(二)中の(2)〈2〉及び(3)〈2〉の各記載からすれば、本件発明1のグランドパッキン用編み糸を利用して編組又は撚り加工をして形成したものであって、その効果は、本件発明1のグランドパッキン用編み糸を利用して形成したことによる効果であるにとどまるものと認められる。したがって、本件発明2における編み糸も、その構造は、編組又は撚り加工の前に備わっていることを要するものと解するのが相当である。

(四) 次に、右の「編組又は撚り加工の前」とは、具体的にいかなる時点であるかを検討するに、本件発明1のグランドパッキン用編み糸を利用した本件発明2のグランドパッキンの製造工程については、特許請求の範囲はもとより、発明の詳細な説明の記載を通覧しても、ただ「編組または撚り加工」をすると記載されているにとどまる。したがって、本件発明2におけるグランドパッキンの製造は、公知の編組工程を行うことが前提とされていると解される。

ところで、乙18によれば、被告が被告新旧グランドパッキンを製造するために使用してきた編組機は、従来から石綿パッキンの製造に利用されてきた機械をそのまま膨張黒鉛テープのグランドパッキンに転用したものか、又は訴外株式会社コクブンリミテッドの製造にかかる靴ひも等の種々の細物の製造のための標準的な組ひも機を基礎として若干の仕様の変更を加えたものであり、両者の構造は基本的には変わりがなく、いずれも編組機としては一般的なものであると認められる。

したがって、本件発明において、グランドパッキンを製造するための編組又は撚り加工というのは、右の公知の編組機による製造工程を指すものと考えられるから、右の編組機の作動による種々の力が加わっても編み糸の保形性が維持され、切断が生じないようにするには、編組機による右のような力が加わる前の時点において、本件発明の編み糸の構造が備わっておく必要があると解される。

2  被告新編み糸及び被告新グランドパッキンの特定について

(一) 乙1、乙18、検乙1及び検乙2によれば、被告新編み糸及び被告新グランドパッキンの製造方法は、次のとおりであると認められる。

〈1〉 編み糸の原材料は、厚さ約〇・三八mm、長さ約五〇mの膨張黒鉛シートを幅約七mmに切断したものである。

〈2〉 補強材の原材料は、直径〇・〇八mmのステンレス線である。

〈3〉 編み糸は、まず、編み機(ブレーダー)によって、〈1〉の膨張黒鉛シートの外周全面を、〈2〉のステンレス糸一六本で袋編みし、ロールに通して伸延する。この状態の編み糸は、平らな状態である。

〈4〉 〈3〉の編み糸は、折曲ロールによって、V字型に変形加工される。

〈5〉 〈4〉のV字型編み糸は、方向転換のためにガイドローラーを通され、この間、引張力を加えられながら、ボビンに巻き取られる。

〈6〉 〈5〉のボビン八本(又は一二本、一六本)を前記の編み機(ブレーダー)にセットした後、各編み糸は、キャリアーを通過して編組位置まで至り、そこで編組されて、グランドパッキンが編まれる。この編組の工程では、引っ張り、撚り、しごき等の種々の力が編み糸に加えられる。なお、中芯を有するグランドパッキンの場合は、この工程で、中芯の周囲に編み糸が編み込まれる。

〈7〉 〈6〉によって編まれたグランドパッキンは、表面処理、乾燥の工程を経て、型付ロールによって上下左右から所定の寸法及び断面形状に圧縮成形されて、紐状グランドパッキンが完成する。

〈8〉 顧客から寸法及び形状の指定があった場合には、〈7〉の紐状グランドパッキンを成形金型でリング状に圧縮成形し、リング状グランドパッキンが完成する。

(二) 右の製造工程からすれば、グランドパッキン用編み糸としては、前記編組機による種々の力が加わる前の〈5〉のボビンヘ巻き取られた状態をもって特定するのが相当である。

原告の主張は、編組前に本件発明1のグランドパッキン用編み糸の構造が備わっているとするには、〈6〉のキャリアーを通過した時点をとらえるべきであるとする趣旨と解され、甲17を挙示して、右時点での被告新編み糸は本件発明1の構造を備えていると主張する。しかし、甲17によれば、その写真1及び2と写真6及び7を比較した場合、膨張黒鉛テープの形状に大きな変化が見られることから、キャリアー通過時には編み糸に大きな力が加えられるものと考えられるが、そのような力は前記の公知の編組機によって加えられる力であり、そのような力が加えられる時点で既に編み糸の保形性を維持し、切断を回避するというのが本件発明の目的とするところであるから、キャリアー通過後の編み糸の形状をもって、被告新編み糸を特定することは相当でない。

(三) そして、右ボビンヘ巻き取られた編み糸の現物である検乙2を検すると、前記〈4〉の工程でV字加工された編み糸は、折り畳まれてボビンに巻き取られており、その折畳層の間には、ステンレス線による袋編組体が介在していることが認められる。

この点原告は、被告新グランドパッキンの断面構造の分析(甲4、甲5及び甲13)により、折畳層間に袋編組体が介在していないから、編組前の編み糸にも折畳層間に袋編組体は介在しているはずがないと主張する。しかし、ボビンに巻き取られた状態の編み糸の現物を検分した結果は前記のとおりである上、甲4及び甲5の分析中(写真30、35、40、45)にも、折畳層間に袋編組体が介在している状態の編み糸が見られる。さらに、前記認定にかかる被告新グランドパッキンの製造工程及び甲4、甲5によれば、編み糸は、〈6〉ないし〈8〉の工程において種々の強い外力を受け、それによって編み糸の形状も著しく変形していることが認められるから、直径〇・〇八mmの細く外力に対して変形を受けやすいステンレス線の補強材が右工程の前後において元の形状及び構造をそのまま維持するものとはおよそ考え難い。したがって、完成品たる被告新グランドパッキンの断面構造の分析から編組前の編み糸の状態が推認できるとする原告の右主張は採用できない。

また、甲17の分析中には、ボビンに巻き取られた状態から切り取った被告新編み糸の断面構造として、袋編組体がほとんど折畳層間に介在していない結果が示されている。しかし、弁論の全趣旨によれば、甲17の分析の対象となった編み糸部分は、ボビンにしっかりと巻き付けられた部分ではなく、ボビンヘの巻き付けから解放された編み糸先端の部分であると認められ、そうであるために、甲17の分析においても、編み糸の断面がV字型に広がっていることが認められるから、そのような状態の編み糸の分析をもって、ボビンに巻き付けられた状態の編み糸の断面構造を認定することはできない。

(四) 以上によれば、被告新編み糸は、別紙目録(10)又は別紙イ号物件目録記載のものとして特定すべきであるが、ボビンに巻き付けられている状態の被告新編み糸は、V字形を保っておらず、巻付力によって折り畳まれていることからすると、別紙目録(10)のとおり特定するのが相当である。

また、前記1(一)ないし(三)からすれば、本件発明2のグランドパッキンは、本件発明1のグランドパッキン用編み糸を利用して製造したものであるから、被告新グランドパッキンの特定は、別紙目録(五)ないし(八)のとおりとするのが相当である。

3  被告旧編み糸及び被告旧グランドパッキンについて

(一) 乙2、検乙1、検乙3によれば、被告旧グランドパッキンの製造工程は、前記被告新グランドパッキンの製造工程中、〈4〉のV字加工を除いたものであると認められ、〈5〉のボビンに巻き取られた状態では、膨張黒鉛シートの外周にステンレス線の袋編組体が被覆されただげの平らな状態で、折り畳まれていないことが認められる。

これに対し原告は、被告旧グランドパッキンの断面構造の分析結果(甲4、甲5)において、編み糸が折り畳まれていることから、編組前に折り畳まれていないことはあり得ず、現に編組機のキャリアーを通過した後の状態(乙2の写真10)では折り畳まれており、その際には折畳層間に補強材が介在していないと主張する。しかし、まず、甲4及び甲5の断面構造写真の中には、編み糸が折り畳まれていないものもあり(写真9、14の左側部分、写真25の下部分)、また、折り畳まれた層の間に補強材が介在していると見受けられるものもある(写真9右横部分)。また、乙18によれば、被告旧グランドパッキンの編組に用いる編組機は、被告新グランドパッキンの製造に用いるものと同じものか又は基本的に同じ構造のものであると認められるから、前記のとおり編組の過程において種々の強い力が加わり、編み糸の形状が著しく変形する以上、甲4、甲5及び甲13のような完成品であるグランドパッキンの断面構造の分析から直ちに編組前の編み糸の状態を認定することはできない。さらに、キャリアーを通過した時点での編み糸の状態をもって被告旧編み糸として特定するのが相当でないことは、前記被告新編み糸の場合と同様である上に、右のような甲4及び甲5の断面構造写真からすると、キャリアーを通過した時点での編み糸の状態が原告主張のようなものであるとも認めるに足りない。

(二) 右によれば、被告旧編み糸は、別紙旧イ号物件目録のものとして特定するのが相当であり、被告旧グランドパッキンは、別紙旧ロ号ないし旧ホ号物件目録のものとして特定するのが相当である。

二  争点2(被告新旧編み糸は本件発明1の、被告新旧グランドパッキンは本件発明2の各技術的範囲に属するか)について

1  争点2のうち、(二)(被告新旧編み糸及び被告新旧グランドパッキンは、本件発明1及び2の各構成要件Bを充足するか)について検討する。

2  本件発明における第1補強材の意義について、原告は紐状体の外周全体のみを被覆するものに限定されないと主張し、被告は紐状体の外周全体のみを被覆するものに限られる旨を主張しているところ、特許請求の範囲には、「紐状体の外周全体を被覆する」とのみあり、右の点について一義的に明確とはいえない。そこで、本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して検討する。

3(一)  本件明細書(甲1)には、次の〈1〉ないし〈3〉の記載がある。

〈1〉 第1補強材のみを用い、第2補強材を用いていない実施例である第2図について、「さらに、第1補強材11によって紐状体3の外周を被覆しているので、紐状体3と第1補強材11との一体結合力が強く、両者3、11の分離を抑えることができるから、編み糸4の保形性が良くなり、この点から編組も容易にしてグランドパッキン10の封止機能を向上させる。」(本件特許公報7欄13ないし18行目)

〈2〉 第2補強材のみを用い、第1補強材は用いていない実施例の第8図について、「この編み糸4は、紐状体3の折畳層3A、3B、3C間にすべりを生じないので、紐状体3と糸状の第2補強材12との一体結合力が高められるから、糸状の第2補強材12の偏在が抑えられ、強度の均一性を確保できる。」(本件特許公報8欄11ないし14行目)

〈3〉 発明の効果において、本件発明1について、「加えて、上記紐状体と、その外周全体を被覆するニット編みまたは紐状体によってなる第1補強材および折畳層間に長手方向に沿って配置される糸状の第2補強材の少なくともいずれか一方との複合構造に形成されているので、紐状体と補強材との一体結合力を高めて、層間すべりによる補強材の偏在および補強材と紐状体との分離を抑制して、編み糸としての強度および保形性を著しく向上することができる。」(本件特許公報9欄7ないし14行目)

〈4〉 発明の効果において、本件発明1について、「複数枚のテープの重ね合せ構造ではなくて折畳層構造を採用したことにより、この膨張黒鉛テープから形成される紐状体の層間、つまり、折畳層間にすべりを生じることがない。」(本件特許公報9欄3ないし6行目)

(二)  本件明細書においては、右の〈1〉及び〈2〉以外には第1及び第2補強材をそれぞれ単独で使用している記載はないから、当該記載内容に基づいて両補強材の各機能を解釈することが合理的である。また、右〈3〉の効果の記載内容の表現は、右〈1〉及び〈2〉の記載内容及びその表現と対応しているから、右〈3〉に記載された効果は、右〈1〉及び〈2〉に記載された各補強材の内容を併せて記載したものと解される。

以上のことから、第1補強材の機能は、紐状体と第1補強材との一体結合力を強いものとし、両者の分離を抑えることにあり、その結果として、編み糸の保形性を良くするという効果を奏するものであると解される。

他方、第2補強材の機能は、当該第2補強材が配置される紐状体の折畳層間にすべりがない(これは、折畳層構造による効果である。右記〈4〉参照)ことから、紐状体と糸状の第2補強材の結合力が高められ、その結果として、糸状の第2補強材の偏在が抑えられ、強度の均一性を確保できることにあるものと解される。

(三)  右の検討からすれば、第1補強材は、編み糸の保形性を良くするために紐状体の外周全体を被覆していると解されるところ、本件発明1のグランドパッキン用編み糸は膨張黒鉛テープの折畳層構造を有しているのであるから、編み糸の保形性とはこの折畳層構造の保形性に他ならない。

そして、この折畳層構造の保形性を良くするためには、当該形状を保持し得るように被覆を行うことが当然のことであるから、幅広で単層の膨張黒鉛テープを被覆した後にこれを折り畳むような被覆の形態(折畳層間に第1補強材が介在する被覆形態)と、当該膨張黒鉛テープを折り畳んだ後にその外周全体を被覆する形態(折畳層に第1補強材が介在せずに、外周のみを被覆する形態)とを比較した場合、後者のように、折畳層構造を周囲から束ねて保持することの方が、折畳層構造の保形性をより良く維持できることは明白であり、これに対して、前者は保形性を保証できるものではないと考えられる。また、本件明細書においては、第1補強材に用いる材料の例として、木綿も挙げられており(本件特許公報8欄35ないし43行目)、このような繊維自体に、周囲から束ねる場合以外の保形性の機能があるものとは考え難い。

(四)  また、(二)のような第1補強材の機能は、本件明細書において、従来技術として示されているところと同一であるが(本件特許公報4欄26ないし29行目、同39ないし42行目、第13図、第14図)、本件明細書中の発明の詳細な説明を通覧しても、右の従来技術の補強材による保形性の維持に問題があるとの指摘や、それを改良した構成、また、本件発明によって従来技術の補強材によるよりも保形性が向上する旨を示唆する記載は全く見当たらない。かえって、右補強材を使用した従来技術の編み糸の問題点として指摘されているのは、右補強材と膨張黒鉛テープを複数枚重ね合わせた紐状体との複合構造の下では、細幅の膨張黒鉛テープを形成する作業が困難であること、層間すべりが生じることの二点のみであって(前記一1(二)(1)〈2〉及び〈3〉参照)、そのような問題点に対しては、前記(一)〈4〉のとおり、膨張黒鉛テープを折畳層構造とすることによって解決を図ったものと認められる。

このような明細書の記載からすると、本件発明は、第1補強材については第13図及び第14図によって開示される従来技術をそのまま利用したものと解するのが相当である。

(五)  この点について原告は、本件発明における第2補強材は折畳層の間に配置されるのであるから、第1補強材が折畳層間に配置されることは排除されていないと主張するが、右(二)における第1補強材と第2補強材の機能の差に照らして採用できない。

(六)  以上よりすれば、本件発明1の第1補強材は、膨張黒鉛テープの折畳層構造を周囲から束ねて保持することにより、折畳層構造の保形性を維持するものと解するのが相当であり、紐状体の折畳層間に介在するものを含まないものであると解するのが相当である。また、本件発明2のグランドパッキンは、本件発明1のグランドパッキン用編み糸を利用したものと解されることは前記のとおりであるから、本件発明2における第1補強材も同様に解するのが相当である。

4  しかるところ、先に特定したところによれば、被告新編み糸の構造は、膨張黒鉛テープの折畳層構造の間にステンレス線による補強材が介在しているものであるから、被告新編み糸及びそれを利用した被告新グランドパッキンは、本件発明の「第1補強材」を備えていないというべきである。

したがって、被告新編み糸は本件発明1の、被告新グランドパッキンは本件発明2の各構成要件Bを満たさない(なお、被告新編み糸の補強材が本件発明の「第2補強材」に該当するか否かについては、当事者が明らかに主張しないところであり、検討する必要を見ない。)。

5  また、被告旧編み糸の構造は、膨張黒鉛テープをステンレス線で被覆した平らな編み糸であるから、本件発明の「折畳層構造」を備えていないというべきである。

したがって、被告旧編み糸は本件発明1の、被告旧グランドパッキンは本件発明2の各構成要件Aを満たさない。

第五  結論

以上によれば、その余について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから、主文のとおり判決する。

(平成一〇年一〇月二〇日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 小出啓子)

(別紙)

物件対応表

原告の主張 被告の主張

被告旧グランドパッキン

物件目録(一) 物件目録(二) 物件目録(三) 物件目録(四) 旧ロ号物件目録 物件目録(二) 旧ニ号物件目録 旧ハ号物件目録 旧ホ号物件目録

被告新グランドパッキン

物件目録(五) 物件目録(六) 物件目録(七) 物件目録(八) ロ号物件目録 ニ号物件目録 ハ号物件目録 ホ号物件目録

被告旧編み糸

物件目録(九) 旧イ号物件目録

被告新編み糸

物件目録(一〇) イ号物件目録

目録(一)

イ号物件

一 名称

グランドパッキン

二 図面の簡単な説明

第1図はグランドパッキン用編み糸の部分概略断面図である。

第2図は第1図のグランドパッキン用編み糸を複数本(8本)収束して編組したグランドパッキンの部分概略断面図である。

三 構造の説明

1はグランドパッキン用編み糸、2は紐状体、3は補強材、G1は紐状のグランドパッキンである。

紐状体2は脆性材料である膨張黒鉛テープを長手方向に谷折りに折り畳んで塑性変形された折畳層構造になっているものである。

補強材3は金属線を編組しているものである。

グランドパッキン用編み糸1は右紐状体2の外周全体を右補強材3で被覆している。

グランドパッキンG1は右グランドパッキン用編み糸1を複数本(8本)収束して編組しているものである。

目録(一)イ号物件

〈省略〉

目録(二)

ロ号物件

一 名称

グランドパッキン

二、図面の簡単な説明

第1図はグランドパッキン用編み糸の部分概略断面図である。

第2図(ロ号物件〈1〉)は第1図のグランドパッキン用編み糸を複数本(8本)集束して中芯の外周を袋編みしたグランドパッキンの部分概略断面図である。

第3図(ロ号物件〈2〉)は第1図のグランドパッキン用編み糸を複数本(16本)集束して中芯の外周を袋編みしたグランドパッキンの部分概略断面図である。

第4図(ロ号物件〈3〉)は第1図のグランドパッキン用編み糸を複数本(12本)集束して中芯の外周を袋編みしたグランドパッキンの部分概略断面図である。

三、構造の説明

1はグランドパッキン用編み糸、2は紐状体、3は補強材、G2は紐状のグランドパッキンである。

紐状体2は脆性材料である膨張黒鉛テープを長手方向に谷折りに折り畳んで塑性変形された折畳層構造になっているものである。

補強材3は金属線を編組しているものである。

グランドパッキン用編み糸1は右紐状体2の外周全体を右補強材3で被覆しているものである。

グランドパッキンG2、G2’、G2”は中芯4を包囲するように右グランドパッキン用編み糸1を複数本(8本、16本、12本)集束して袋編みにしているものである。

目録(二)ロ号物件

〈省略〉

目録(三)

ハ号物件

一、名称

グランドパッキン

二、図面の簡単な説明

第1図はグランドパッキン用編み糸の部分概略断面図である。

第2図は第1図のグランドパッキン用編み糸を複数本(8本)収束して編組した紐状のグランドパッキンの部分概略断面図である。

第3図は第2図のグランドパッキンを所定長さに切断してリング状に圧縮成形したグランドパッキンの斜見図である。

三、構造の説明

1はグランドパッキン用編み糸、2は紐状体、3は補強材、G1は紐状のグランドパッキン、G3はリング状のグランドパッキンである。

紐状体2は脆性材料である膨張黒鉛テープを長手方向に谷折りに折り畳んで塑性変形された折畳層構造になっているものである。

補強材3は金属線を編組しているものである。

グランドパッキン用編み糸1は右紐状体2の外周全体を右補強材3で被覆しているものである。

グランドパッキンG3は、先ず右グランドパッキン用編み糸1を複数本(8本)収束して編組した紐状のグランドパッキンG1を形成した後、所定長さに切断して、リング状になるように圧縮成形したものである。

目録(三)ハ号物件

〈省略〉

目録(四)

ニ号物件

一、名称

グランドパッキン

二、図面の簡単な説明

第1図はグランドパッキン用編み糸の部分概略断面図である。

第2図は第1図のグランドパッキン用編み糸を複数本(8本)集束して中芯の外周を袋編みした紐状のグランドパッキンの部分概略断面図である。

第3図は第2図のグランドパッキンを所定長さに切断して、リング状に圧縮成形したグランドパッキンの斜見図である。

三、構造の説明

第1図において、1はグランドパッキン用編み糸、2は紐状体、3は補強材、G2は紐状のグランドパッキン、G4はリング状のグランドパッキンである。

紐状体2は脆性材料である膨張黒鉛テープを長手方向に谷折りに折り畳んで塑性変形された折畳層構造になっているものである。

補強材3は金属線を編組しているものである。

グランドパッキン用編み糸1は右紐状体2の外周全体を右補強材3で被覆しているものである。

グランドパッキンG4は、先ず中芯4を包囲するように右グランドパッキン用編み糸1を複数本(8本)集束して袋編みした紐状のグランドパッキンG2を形成した後、所定長さに切断して、リング状になるように圧縮成形したものである。

目録(四)ニ号物件

〈省略〉

目録(五)

ホ号物件

一、名称

グランドパッキン

二、図面の簡単な説明

第1図はグランドパッキン用編み糸の部分概略断面図である。

第2図は第1図のグランドパッキン用編み糸を複数本(8本)収束して編組したグランドパッキンの部分概略断面図である。

三、構造の説明

11はグランドパッキン用編み糸、12は紐状体、13は補強材、G5は紐状のグランドパッキンである。

紐状体12は脆性材料である膨張黒鉛テープを長手方向に谷折りに折り畳んで塑性変形された折畳層構造になっているものである。

補強材13は金属線を編組しているものである。

グランドパッキン用編み糸11は右紐状体12の折畳間に右補強材13の一部を介在させる状態で右紐状体12の外周全体を右補強材13で被覆しているものである。

グランドパッキンG5は右グランドパッキン用編み糸11を複数本(8本)収束して編組しているものである。

目録(五)ホ号物件

〈省略〉

目録(六)

ヘ号物件

一、名称

グランドパッキン

二、図面の簡単な説明

第1図はグランドパッキン用編み糸の部分概略断面図である。

第2図は第1図のグランドパッキン用編み糸を複数本(12本)集束して中芯の外周を袋編みしたグランドパッキンの部分概略断面図である。

三、構造の説明

11はグランドパッキン用編み糸、12は紐状体、13は補強材、G6は紐状のグランドパッキンである。

紐状体12は脆性材料である膨張黒鉛テープを長手方向に谷折りに折り畳んで塑性変形された折畳層構造になっているものである。

補強材13は金属線を編組しているものである。

グランドパッキン用編み糸11は右紐状体12の折畳間に右補強材13の一部を介在させる状態で右紐状体12の外周全体を右補強材13で被覆しているものである。

グランドパッキンG6は中芯4を包囲するように右グランドパッキン用編み糸11を複数本(12本)集束して袋編みにしているものである。

目録(六)ヘ号物件

〈省略〉

目録(七)

ト号物件

一、名称

グランドパッキン

二、図面の簡単な説明

第1図はグランドパッキン用編み糸の部分概略断面図である。

第2図は第1図のグランドパッキン用編み糸を複数本(8本)収束して編組した紐状のグランドパッキンの部分概略断面図である。

第3図は第2図のグランドパッキンを所定長さに切断して、リング状に圧縮成形したグランドパッキンの斜見図である。

三、構造の説明

11はグランドパッキン用編み糸、12は紐状体、13は補強材、G5は紐状のグランドパッキン、G7はリング状のグランドパッキンである。

紐状体12は脆性材料である膨張黒鉛テープを長手方向に谷折りに折り畳んで塑性変形された折畳層構造になっているものである。

補強材13は金属線を編組しているものである。

グランドパッキン用編み糸11は右紐状体12の折畳間に右補強材13の一部を介在させる状態で右紐状体12の外周全体を右補強材13で被覆しているものである。

グランドパッキンG7は、先ず右グランドパッキン用編み糸11を複数本(8本)収束して編組したグランドパッキンG5を形成した後、所定長さに切断して、リング状になるように圧縮成形したものである。

目録(七)ト号物件

〈省略〉

目録(八)

チ号物件

一、名称

グランドパッキン

二、図面の簡単な説明

第1図はグランドパッキン用編み糸の部分概略断面図である。

第2図は第1図のグランドパッキン用編み糸を複数本(12本)集束して中芯の外周を袋編みしたグランドパッキンの部分概略断面図である。

第3図は第2図のグランドパッキンを所定長さに切断して、リング状に圧縮成形したグランドパッキンの斜見図である。

三、構造の説明

11はグランドパッキン用編み糸、12は紐状体、13は補強材、G6は紐状のグランドパッキン、G8はリング状のグランドパッキンである。

紐状体12は脆性材料である膨張黒鉛テープを長手方向に谷折りに折り畳んで塑性変形された折畳層構造になっているものである。

補強材13は金属線を編組しているものである。

グランドパッキン用編み糸11は右紐状体12の折畳間に右補強材13の一部を介在させる状態で右紐状体12の外周全体を右補強材13で被覆しているものである。

グランドパッキンG8は、先ず中芯4を包囲するように右グランドパッキン用編み糸11を複数本(12本)集束して袋編みした紐状のグランドパッキンG6を形成した後、所定長さに切断して、リング状になるように圧縮成形したものである。

目録(八)チ号物件

〈省略〉

目録(九)

リ号物件

一、名称

グランドパッキン用編み糸

二、図面の簡単な説明

第1図はグランドパッキン用編み糸の部分概略断面図である。

三、構造の説明

1はグランドパッキン用編み糸、2は紐状体、3は補強材である。

紐状体2は脆性材料である膨張黒鉛テープを長手方向に谷折りに折り畳んで塑性変形された折畳層構造になっているものである。

補強材3は金属線を編組しているものである。

グランドパッキン用編み糸1は右紐状体2の外周全体を右補強材3で被覆しているものである。

目録(九)リ号物件

〈省略〉

目録(一〇)

ヌ号物件

一、名称

グランドパッキン用編み糸

二、図面の簡単な説明

第1図はグランドパッキン用編み糸の部分概略断面図である。

三、構造の説明

11はグランドパッキン用編み糸、12は紐状体、13は補強材である。

紐状体12は脆性材料である膨張黒鉛テープを長手方向に谷折りに折り畳んで塑性変形された折畳層構造になっているものである。

補強材13は金属線を編組しているものである。

グランドパッキン用編み糸11は右紐状体12の折畳間に右補強材13の一部を介在させる状態で右紐状体12の外周全体を右補強材13で被覆しているものである。

目録(十)ヌ号物件

〈省略〉

旧(イ)号物件目録

別紙旧(イ)号物件説明書及び図面記載のグランドパッキン用編み糸

旧(イ)号物件説明書

一 別紙図面の説明

第1図は、グランドパッキン用編み糸(1)の断面斜視図である。

二 グランドパッキン用編み糸(1)の構成

1 脆性材料である厚さ約〇・三八ミリメートル、幅約七ミリメートル、長さ約三〇メートル又は約五〇メートルの膨張黒鉛テープ(2)と

2 前記膨張黒鉛テープ(2)の脆性を補強するために、直径約〇・〇八ミリメートルのステンレス線(3)を一六本で袋編みして、前記膨張黒鉛テープ(2)の全体を被覆した補強編み袋体(4)と

3 からなる複合材料の糸である。

第1図

〈省略〉

旧(ロ)号物件目録

別紙旧(ロ)号物件説明書及び図面記載の紐状グランドパッキン

旧(ロ)号物件説明書

一 別紙図面の説明

第1図は、旧(イ)号物件目録記載のグランドパッキン用編み糸(1)の断面斜視図である。

第2図は、紐状グランドパッキン(5)の断面省略斜視図である。

二 紐状グランドパッキン(5)の構成

旧(イ)号物件目録記載のグランドパッキン用編み糸(1)を八本で八編みし、矩形状に圧縮成形した後、所望の長さに切断したものである。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

旧(ハ)号物件目録

別紙旧(ハ)号物件説明書及び図面記載のリング状グランドパッキン

旧(ハ)号物件説明書

一 別紙図面の説明

第1図は、旧(ロ)号物件目録記載の紐状グランドパッキン(5)の断面省略斜視図である。

第2図は、リング状グランドパッキン(6)の斜視図である。

二 リング状グランドパッキン(6)の構成

旧(ロ)号物件目録記載の紐状グランドパッキン(5)をリング状の金型に入れて、圧縮成形したものである。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

旧(ニ)号物件目録

別紙旧(ニ)号物件説明書及び図面記載の中芯入り紐状グランドパッキン

旧(ニ)号物件説明書

一 別紙図面の説明

第1図は、旧(イ)号物件目録記載のグランドパッキン用編み糸(1)の断面斜視図である。

第2図は、中芯入り紐状グランドパッキン(7)(旧(イ)号物件目録記載のグランドパッキン用編み糸(1)を八本で単層に袋編みしたものを例示する。)の断面一部省略斜視図である。

二 中芯入り紐状グランドパッキン(7)の構成

1 単層袋編み

旧(イ)号物件目録記載のグランドパッキン用編み糸(1)を八本、一二本又は一六本でプラスチック製の棒状の中芯(8)(断面直径約六・五ミリメートル、約七・五ミリメートル、約一一ミリメートル又は約一二・五ミリメートル)の外周を単層に袋編みし、矩形状に圧縮成形した後、所望の長さに切断したものである。

2 二層袋編み

旧(イ)号物件目録記載のグランドパッキン用編み糸(1)を各一六本でプラスチック製の棒状の中芯(8)(断面直径約一一ミリメートル又は約一二・五ミリメートル)の外周を二層に袋編みし、矩形状に圧縮成形した後、所望の長さに切断したものである。

3 三層袋編み

旧(イ)号物件目録記載のグランドパッキン用編み糸(1)を各一六本でプラスチック製の棒状の中芯(8)(断面直径約一二・五ミリメートル)の外周を三層に袋編みし、矩形状に圧縮成形した後、所望の長さに切断したものである。

4 四層袋編み

旧(イ)号物件目録記載のグランドパッキン用編み糸(1)を各一六本又は各二四本でプラスチック製の棒状の中芯(8)(断面直径約一二・五ミリメートル)の外周を四層に袋編みし、矩形状に圧縮成形した後、所望の長さに切断したものである。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

旧(ホ)号物件目録

別紙旧(ホ)号物件説明書及び図面記載の中芯入りリング状グランドパッキン

旧(ホ)号物件説明書

一 別紙図面の説明

第1図は、旧(ニ)号物件目録記載の中芯入り紐状グランドパッキン(7)((イ)号物件目録記載のグランドパッキン用編み糸(1)を八本で単層に袋編みしたものを例示する。)の断面一部省略斜視図である。

第2図は、中芯入りリング状グランドパッキン(9)の斜視図である。

二 中芯入りリング状グランドパッキン(9)の構成

旧(ニ)号物件目録記載の中芯入り紐状グランドパッキン(7)をリング状の金型に入れて、圧縮成形したものである。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

イ号物件目録

別紙イ号物件説明書及び図面記載のグランドパッキン用編み糸

イ号物件説明書

一 別紙図面の説明

第1図は、グランドパッキン用編み糸(折り曲げ前)1の断面斜視図である。

第2図は、グランドパッキン用編み糸(折り曲げ後)5の断面斜視図である。

二 グランドパッキン用編み糸の構成

1 グランドパッキン用編み糸(折り曲げ前)1の構成

(一) 脆性材料である厚さ約〇・三八ミリメートル、幅約七ミリメートル、長さ約三〇メートル又は約五〇メートルの膨張黒鉛テープ2と

(二) 前記膨張黒鉛テープ2の脆性を補強するために、直径約〇・〇八ミリメートルのステンレス線3を一六本で袋編みして、前記膨張黒鉛テープ2の全体を被覆した補強編み袋体4と

(三) からなる複合材料の糸である。

2 グランドパッキン用編み糸(折り曲げ後)5の構成

前記グランドパッキン用編み糸(折り曲げ前)1の幅方向のほぼ中心を長手方向に内側を開放してほぼV字形に折り曲げて成形した糸であって、折り曲げ方向において弾性を保持しているものである。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

ロ号物件目録

別紙ロ号物件説明書及び図面記載の紐状グランドパッキン

ロ号物件説明書

一 別紙図面の説明

第1図は、イ号物件目録記載のグランドパッキン用編み糸(折り曲げ後)5の断面斜視図である。

第2図は、紐状グランドパッキン6の断面斜視図である。

二 紐状グランドパッキン6の構成

イ号物件目録記載のグランドパッキン用編み糸(折り曲げ後)5を八本で八編みし、矩形状に圧縮成形した後、所望の長さに切断したものである。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

ハ号物件目録

別紙ハ号物件説明書及び図面記載のリング状グランドパッキン

ハ号物件説明書

一 別紙図面の説明

第1図は、ロ号物件目録記載の紐状グランドパッキン6の断面斜視図である。

第2図は、リング状グランドパッキン7の斜視図である。

二 リング状グランドパッキン7の構成

ロ号物件目録記載の紐状グランドパッキン6をリング状の金型に入れて、圧縮成形したものである。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

ニ号物件目録

別紙ニ号物件説明書及び図面記載の中芯入り紐状グランドパッキン

ニ号物件説明書

一 別紙図面の説明

第1図は、イ号物件目録記載のグランドパッキン用編み糸(折り曲げ後)5の断面斜視図である。

第2図は、中芯入り紐状グランドパッキン8(グランドパッキン用編み糸(折り曲げ後)5を八本で単層に袋編みしたものを例示する。)の断面斜視図である。

二 中芯入り紐状グランドパッキン8の構成

1 単層袋編み

イ号物件目録記載のグランドパッキン用編み糸(折り曲げ後)5を八本、一二本又は一六本でプラスチック製の棒状の中芯9(断面直径約六・五ミリメートル、約七・五ミリメートル、約一一ミリメートル又は約一二・五ミリメートル)の外周を単層に袋編みし、矩形状に圧縮成形した後、所望の長さに切断したものである。

2 二層袋編み

イ号物件目録記載のグランドパッキン用編み糸(折り曲げ後)5を各一六本でプラスチック製の棒状の中芯9(断面直径約一一ミリメートル又は約一二・五ミリメートル)の外周を二層に袋編みし、矩形状に圧縮成形した後、所望の長さに切断したものである。

3 三層袋編み

イ号物件目録記載のグランドパッキン用編み糸(折り曲げ後)5を各一六本でプラスチック製の棒状の中芯9(断面直径約一二・五ミリメートル)の外周を三層に袋編みし、矩形状に圧縮成形した後、所望の長さに切断したものである。

4 四層袋編み

イ号物件目録記載のグランドパッキン用編み糸(折り曲げ後)5を各一六本又は各二四本でプラスチック製の棒状の中芯9(断面直径約一二・五ミリメートル)の外周を四層に袋編みし、矩形状に圧縮成形した後、所望の長さに切断したものである。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

ホ号物件目録

別紙ホ号物件説明書及び図面記載の中芯入りリング状グランドパッキン

ホ号物件説明書

一 別紙図面の説明

第1図は、ニ号物件目録記載の中芯入り紐状グランドパッキン8(グランドパッキン用編み糸(折り曲げ後)5を八本で単層に袋編みしたものを例示する。)の断面斜視図である。

第2図は、中芯入りリング状グランドパッキン10の斜視図である。

二 中芯入りリング状グランドパッキン10の構成

ニ号物件目録記載の中芯入り紐状グランドパッキン8をリング状の金型に入れて、圧縮成形したものである。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

(19)日本国特許庁(JP) (12)特許公報(B2) (11)特許出願公告審号

特公平6-27546

(24)(44)公告日 平成6年(1994)4月13日

(51)Int Cl. F 16 J 15/22 D 04 C 1/12 識別記号 庁内整理番号 8207-3J FI 技術表示箇所

請求項の数3

(21)出願番号 特願平2-127818

(22)出願日 平成2年(1990)5月16日

(65)公開番号 特開平4-25671

(43)公開日 平成4年(1992)1月29日

審判番号 平4-22308

(71)出願人 999999999

日本ピラー工業株式会社

大阪府大阪市淀川区野中南2丁目11番48号

(72)発明者 上田隆久

兵庫県三田市下内神字打場541-1 日本ピラー工業株式会社三田工場内

(74)代理人 弁理士 鈴江孝一 (外1名)

審判の合議体

審判長 弓田昌弘

審判官 鍛冶沢実

審判官 西村敏彦

(56)参考文献 特開 昭63-1863(JP、A)

実開 昭63-6272(JP、U)

実公 昭8-1891(JP、Y1)

(54)【発明の名称】 グランドパッキン用編み糸およびグランドパッキン

【特許請求の範囲】

【請求項1】脆性材料である膨張黒鉛テープを編み糸とすべく長手方向に山折り、谷折りの少なくともいずれか一方に折りたたんで塑性変形させた折畳層構造の紐状体と、この紐状体の外周全体を被覆するニット編みまたは編組体によってなる第1補強材および前記折畳層間に長手方向に沿って配置される糸状の第2補強材の少なくともいずれか一方との複合構造で編み糸を形成したことを特徴とするグランドパッキン用編み糸。

【請求項2】脆性材料である膨張黒鉛テープを編み糸とすべく長手方向に山折り、谷折りの少なくともいずれか一方に折りたたんで塑性変形させた折畳層構造の紐状体と、この紐状体の外周全体を被覆するニット編みまたは編組体によってなる第1補強材および前記折畳層間に長手方向に沿って配置される糸状の第2補強材の少なくともいずれか一方との複合構造で編み糸を形成し、この編み糸を複数本集束して編組または撚り加工したことを特徴とするグランドパッキン。

【請求項3】棒状の中芯と、この中芯の外周を被覆するニット編みまたは編組体の補強被覆層とからなるグランドパッキンにおいて、前記中芯が、脆性材料である膨張黒鉛テープを編み糸とすべく長手方向に山折り、谷折りの少なくともいずれか一方に折りたたんで塑性変形させた折畳層構造の紐状体と、この紐状体の外周全体を被覆する編組体によってなる第1補強材および前記折畳層間に長手方向に沿って配置される糸状の第2補強材の少なくともいずれか一方との複合構造で編み糸を形成し、この編み糸を複数本集束して編組または撚り加工されていることを特徴とするグランドパッキン。

【発明の詳細な説明】

[産業上の利用分野]

本発明は、流体機器の軸封部などに用いられるグランドパッキン用編み糸およびグランドパッキンに関する。

[従来の技術]

従来、例えば流体機器の軸封部などに用いられるグランドパッキンとして、圧縮復元性が高く封止性にすぐれた特性をもっているテープ状の膨張黒鉛を渦巻き状または同心円状に巻き重ねたのち、金型内で加圧してリング状に成形するダイモールド式もしくはシート状の膨張黒鉛をリング状に打ち抜いたのち、これを多数枚積層して成形するラミネート式によって製造されているものが知られている。

しかし、前記従来のパッキンにおいて、ダイモールド式によって製造されたパッキンでは、軸径の異なるものに使用できないので汎用性に乏しく、したがって、異なる軸径に対応する多種類のパッキンをあらかじめ用意しておかなくてはならない難点があり、かつ膨張黒鉛自体、引張強さが弱く脆いため、スタフインボックスなどに装着したものを交換のために取り出す作業が困難で使用性が劣る。

また、パッキンが径方向に層状を呈する構成であるため、各層間において軸方向のすべりを生じ易く、例えば軸とパッキンボックス(スタフインボックス)の間、軸とパッキン押えの間およびパッキンボックスとパッキン押えの間などの隙間にはみ出し、体積減少による応力緩和を招いてシール性を低下させ、流体の漏れ量を増大させる欠点につながり、しかも各層の間からの浸透漏洩が発生する問題点を有している。

一方、ラミネート式によって製造されたパッキンは、軸方向に層状を呈する構成であるため、ダイモールド式によって製造されたパッキンのような、軸方向のすべりによって隙間にはみだす不都合を生じないので、体積減少による応力緩和が回避され、したがってシール性が低下しない利点を有してはいるものの、ダイモールド式によって製造されたパッキンと同様、軸径の異るものには使用できないので汎用性に乏しく、したがって、異なる軸径に対応する多種類のパッキンをあらかじめ用意しておかなくてはならない上に、スタフインボックスなどに装着したものを交換のために取り出す作業が困難で使用性に劣る難点があり、しかも材料取りの点でロスが多くコスト高になるなどの問題点を有している。

これらの問題点は、他の編組パッキシと同様、膨張黒鉛を軽径に合せて所定の長さに切断して使用できるように、編組または撚り加工することで解決できる。

しかし、膨張黒鉛自体は、黒鉛粒子の結晶のC軸方向に膨張させた外観芋虫状粒子(粉体)であるため、引張強さが弱く脆い性質のものであるから、膨張黒鉛のみを編組または撚り加工のための編み糸として使用することができない。

そこで、第12図に示すように、細幅に切断した膨張黒鉛テープ1を糸状補強材2の外周にスパイラル状に巻回被覆した複合構造の紐状体3によって構成した編み糸4、第13図に示すように、細幅に切断した膨張黒鉛テープ1の複数枚重ね合せによって紐状体3を形成し、その外周を繊維のニット編みまたは袋編みなどの編組体補強材5で被覆した複合構造の編み糸4、第14図に示すように、細幅に切断した膨張黒鉛テープ1の複数枚重ね合せによって紐状体3を形成し、紐状体3の層間に長手方向に沿って複数の糸状補強材2を配置するとともに、紐状体3の外周を繊維のニット編みまたは袋編みなどの編組体補強材5で被覆した複合構造の編み糸4および第15図に示すように、複数本の糸状補強材2の両面に接着材によって芋虫状の膨張黒鉛1Bを一体に接着した複合構成の編み糸4などが提案されている。

[発明が解決しようとする課題]

ところが、第12図に示す編み糸4は、膨張黒鉛シートを細幅に切断して、膨張黒鉛テープ1を形成する作業が困難である。しかも細幅の膨張黒鉛テープ1を糸状補強材2の外周に、単にスパイラル状に巻回被覆しただけのものであるから、両者1、2の一体結合力が小さく、保形性に劣るため両者1、2が分離し易い。

このような保形性の悪い紐状体3では、グランドパッキンを製造するための編組または撚り加工が困難であるとともに、編組または撚り加工されたグランドパッキンの保形性が悪くなってパッキンの封止機能を低下させる。また、第13図に示す編み糸4は、膨張黒鉛テープ1製の紐状体3と編組体補強材5との一体結合力が強いので、前記第12図の編み糸4と比較して保形性が向上し、両者3、5の分離を抑えられる。しかし、膨張黒鉛シートを細幅に切断して、膨張黒鉛テープ1を形成する作業が困難であり、かつ膨張黒鉛テープ1が複数枚重ね合せられている紐状体3の層間に、相対移動、つまり層間すべりを生じる。

このような、紐状体3に層間すべりの生じる編み糸4では、グランドパッキンを製造するための編組または撚り加工時に膨張黒鉛テープ1に切断が生じて、編組または撚り加工を困難にし、パッキンの封止機能を低下させる。

さらに、第14図に示す編み糸4も、膨張黒鉛テープ1の紐状体3と編組体補強材5との一体結合力が強いので、前記第13図の編み糸4と同様に保形性が向上し両者3、5の分離を抑えられる上、糸状補強材2と編組体補強材4との併用によって強度がさらにアップする。しかし、膨張黒鉛シートを細幅に切断して、膨張黒鉛テープ1を形成する作業が困難であり、かつ膨張黒鉛テープ1が複数枚重ね合せられている紐状体3の層間に層間すべりを生じ、紐状体3と糸状補強材2との一体結合力が弱められているので、糸状補強材2が偏在し易い。そのために、強度の均一性が損なわれるおそれを有している。

このような、層間すべりおよび糸状補強材2の偏在などが生じる編み糸4では、グランドパッキンを製造するための、編組または撚り加工時に膨張黒鉛テープ1に切断が生じて編組または撚り加工を困難にするとともに、強度が不均一になってパッキンの封止機能を低下させる。そして、第15図に示す編み糸4は、膨張黒鉛の高密度化および大きいサイズの製造が困難であるとともに、複数の糸状補強材2が分離し易いなどの欠点を有している。

本発明は上記のような実情に鑑みなされたもので、膨張黒鉛シートの切断による膨張黒鉛テープの形成作業および編み糸の基体となる紐状体の形成作業が容易であるとともに、層間すべりがなく、強度が均一で、保形性に優れたグランドパッキン用編み糸を提供することを主たる目的としている。

本発明の目的は、上記のような編み糸を利用することによって、編組または撚り加工を容易にして、封止機能を大幅に向上することができるグランドパッキンを提供することにある。

さらに、本発明のもう1つの目的は、パッキン強度の大幅な向上を図ることにある。

[課題を解決するための手段]

前記の主目的を達成するために、請求項1の発明に係るグランドパッキン用編み糸は、脆性材料である膨張黒鉛テープを編み糸とすべく長手方向に山折り、谷折りの少なくともいずれか一方に折りたたんで塑性変形させた折畳層構造の紐球体と、この紐状体の外周全体を被覆するニット編みまたは編組体によってなる第1補強材および前記折畳層間に長手方向に沿って配置される糸状の第2補強材の少なくともいずれか一方との複合構造で編み糸を形成したものである。

また、前記の他の目的を達成するために、請求項2の発明に係るグランドパッキンは、脆性材料である膨張黒鉛テープを編み糸とすべく長手方向に山折り、谷折りの少なくともいずれか一方に折りたたんで塑性変形させた折畳層構造の紐状体と、この紐状体の外周全体を被覆するニット編みまたは編組体によってなる第1補強材および前記折畳層間に長手方向に沿って配置される糸状の第2補強材の少なくともいずれか一方との複合構造で編み糸を形成し、この編み糸を複数本集束して編組または撚り加工したものである。

さらに、前記のもう1つの目的を達成するために、請求項3の発明に係るグランドパッキンは、棒状の中芯と、この中芯の外周を被覆するニット編みまたは編組体の補強被覆層とからなるグランドパッキンにおいて、前記中芯が、脆性材料である膨張黒鉛テープを編み糸とすべく長手方向に山折り、谷折りの少なくともいずれか一方に折りたたんで塑性変形させた折畳層構造の紐状体と、この紐状体の外周全体を被覆するニット編みまたは編組体によってなる第1補強材および前記折畳層間に長手方向に沿って配置される糸状の第2補強材の少なくともいずれか一方との複合構造で編み糸を形成し、この編み糸を複数本集束して編組または撚り加工したものである。

[作用]

請求項1の発明によれば、紐状体を形成するための脆性材料である膨張黒鉛テープをその長手方向に山折り、谷折りの少なくともいずれか一方に折りたたんで塑性変形させた折畳層構造としているので、膨張黒鉛シートを細幅に切断しなくても、広幅に切断すればよく、膨張黒鉛テープの形成が容易であるとともに、この膨張黒鉛テープを塑性変形させて折畳層構造を採用したことにより、膨張黒鉛テープから形成される紐状体の層間、つまり、折畳層間にすべりを生じることがない。

加えて、請求項1の発明の編み糸は、上記紐状体と、その外周全体を被覆するニット編みまたは編組体によってなる第1補強材および折畳層間に長手方向に沿って配置される糸状の第2補強材の少なくともいずれか一方との複合構造に形成されているので、紐状体と補強材との一体結合力が高められて、補強材と紐状体との分離を抑え、もって、編み糸としての保形性の向上を図れる。

また、請求項2の発明によれば、上記したような編み糸を複数本集束して編組または撚り加工してグランドパッキンを構成しているので、編組または撚り加工時における膨張黒鉛テープが切断することが回避される。したがって、上記編み糸の編組または撚り加工によるグランドパッキンの製造が容易になるとともに、封止機能の向上が図れる。

さらに、請求項3の発明によれば、上記した編み糸を複数本集束して編組または撚り加工した棒状の中芯の外周全体を、ニット編みまたは編組体の補強被覆層によって被覆しているので、上述のような優れた封止機能に加えて、パッキン強度の大幅な向上を図ることができる。

[実施例]

以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。

第1図は本発明の第1実施例を示す斜視図であり、図において、グランドパッキン10は、第2図に示すように比較的広幅に切断した脆性材料である膨張黒鉛テープ1に、幅方向に延びるコルゲート加工もしくはエンボス加工による波状成形(しわ付け工)1Aを施したのち、長手方向に山折り、谷折りに折りたたんで塑性変形させることで折畳層3A、3B、3Cを形成した紐状体3と、この紐状体3の外周を被覆するニット編み編組体によってなる第1補強材11との複合構造で編み糸4を形成し、この編み糸4を第1図のように8本用いて8打角編みしたものである。

即ち、第2図の編み糸4は、厚さ0.38mm、幅9mmの膨張黒鉛テープ1に前述の波状成形1Aを施したのち、S字形に折りたたんで塑性変形させることで折畳層3A、3B、3Cを形成し紐状体3の表面に、直径0.1mmφのインコネル線のニット編み編組体によってなる第1補強材11を被覆したものである。

したがって、紐状体3を形成するために、膨張黒鉛シートを細幅に切断しなくてもよいので、膨張黒鉛テープ1を形成する作業が容易になる。

また、紐状体3が比較的広幅にした脆性材料製の膨張黒鉛テープ1を長手方向に山折り、谷折りして折畳層3A、3B、3Cを形成した構造になっているから、各層3A、3B、3C間にすべりを生じない編み糸4が得られるので、グランドパッキン10を製造するための編組時に膨張黒鉛テープ1に切断を生じないから編組が容易になり、封止機能の高いグランドパッキン10を得ることができる。

さらに、第1補強材11によって紐状体3の外周を被覆しているので、紐状体3と第1補強材11との一体結合力が強く、両者3、11の分離を抑えることができるから、編み糸4の保形性が良くなり、この点から編組も容易にしてグランドパッキン10の封止機能を向上させる。

第3図は本発明の第2実施例を示し、前記第1実施例と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、その詳しい説明は省略する。この図において、グランドパッキン10は、前記編み糸4を6本用いて撚り加工しながらロール成形したものである。

このように構成しても、前記第1実施例と同様の作用・効果を奏することができる。

第4図は本発明の第3実施例を示し、前記第1実施例および第2実施例と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、その詳しい説明は省略する。この図において、グランドパッキン10Aは、第1実施例で述べたグランドパッキン10を中芯13として使用しており、その外周を炭素繊維の編組体によってなる補強被覆層14で被覆したものである。

このように構成することによって、前記各実施例と同様の作用・効果を奏するとともに、パッキン強度を大幅に向上させることができる。

前記各実施例に使用される紐状体3としては、第2図のような幅方向に延びるコルゲート加工もしくはエンボス加工による波状成形(しわ付け加工)1Aを施したものに限らず、第5図のように波状成形を省略して、膨張黒鉛テープ1を長手方向に山折り、谷折りに折りたたんで塑性変形させることで折畳層3A、3B、3Cを形成した構成のものを使用して編み糸4としてもよい。

また、第6図に示すように、波状成形1Aが施された膨張黒鉛テープ1を長手方向に山折りの2度繰り返しによって折りたたんで塑性変形させることで、折畳層3A、3B、3Cを形成した構成の紐状体3を使用してもよいし、第7図に示すように、波状成形を省略し、膨張黒鉛テープ1を長手方向に山折りの2度繰り返えしによって折りたたんで塑性変形させることで、折畳層3A、3B、3Cを形成した構成の紐状体3を使用して編み糸4としてもよい。

そして、第8図に示すように、比較的広幅に切断した膨張黒鉛テープ1に、幅方向に延びるコルゲート加工もしくはエンボス加工による波状成形(しわ付け加工)1Aを施したのち、長手方向に山折り、谷折りに折りたたんで塑性変形させることで折畳層3A、3B、3Cを形成した紐状体3と、この紐状体3の折畳層3A、3B、3C間に長手方向に沿って複数本配置される、例えば直径0.1mmφのSUS304線によってなる糸状の第2補強材12との複合構造で編み糸4を形成してもよい。

この編み糸4は、紐状体3の折畳層3A、3B、3C間にすべりを生じないので、紐状体3と糸状の第2補強材12との一体結合力が高められるから、糸状の第2補強材12の偏在が抑えられ、強度の均一性を確保できる。また、第9図に示すように、第2図の第1補強材11と、第8図の第2補強材12とを併用した複合構造で編み糸4を形成してもよい。

このように構成することで、第1および第2補強材11、12の相乗効果によりパッキン強度が高められる。さらに、第10図に示すように、波状成形1Aが施された膨張黒鉛テープ1を長手方向に山折りの2度繰り返えしによって折りたたんで塑性変形させることで、折畳層3A、3B、3Cを形成した構成の紐状体3と、この紐状体3の折畳層3A、3B、3C間に長手方向に沿って複数本配置される糸状の第2補強材12との複合構造で編み糸4を形成してもよい。

この編み糸4では、第8図の紐状体3と同様、その折畳層3A、3B、3C間にすべりを生じないので、紐状体3と糸状の第2補強材12との一体結合力が高められるから、糸状の第2補強材12の偏在が抑えられ、強度の均一性を確保できる。

そして、第11図に示すように、第6図の第1補強材11と、第10図の第2補強材12とを併用した複合構造で編み糸4を形成してもよい。

なお、第1、第2補強材11、12にステンレス線およびインコネル線を用い、中芯13を被覆する補強被覆層14として炭素繊維を用いて説明しているが、第1、第2補強材11、12および補強被覆層14には、前記ステンレス線、インコネル線および炭素繊維の他に、ガラス繊維などの無機繊維、木綿、PTFE、アラミド、高強度ポリエチレン、高強度ビニロン、PPS、PEEK、ポリアクリレートなどの有機繊維、モネルなどの金属細幅または金属繊維を使用することもできる。

[発明の効果]

以上のように、本発明によれば、つぎのような効果を奏する。

請求項1のグランドパッギン用編み糸においては、紐状体を形成するための脆性材料である膨張黒鉛テープをその長手方向に山折り、谷折りの少なくともいずれか一方に折りたたんで塑性変形させた折畳層構造としているので、膨張黒鉛シートを細幅に切断しなくても、広幅に切断すればよく、膨張黒鉛テープの形成作業が容易であるとともに、複数枚のテープの重ね合せ構造でなくて折畳層構造を採用したことにより、この膨張黒鉛テープから形成される紐状体の層間、つまり、折畳層間にすべりを生じることがない。

加えて、上記紐状体と、その外周全体を被覆するニット編みまたは紐組体によってなる第1補強材および折畳層間に長手方向に沿って配置される糸状の第2補強材の少なくともいずれか一方との複合構造に形成されているので、紐状体と補強材との一体結合力を高めて、層間すべりによる補強材の偏在および補強材と紐状体との分離を抑制して、編み糸としての強度および保形性を著しく向上することができる。

また、請求項2の発明によれば、上記したように層間すべりや偏在を生じにくく編み糸を複数本集束して編組または撚り加工してグランドパッキンを構成しているので、編組または撚り加工時に膨張黒鉛テープが切断することを回避して、編み糸の編組または撚り加工によるグランドパッキンの構造を容易にできるとともに、強度の均一性を保って、封止機能の向上を図ることができる。さらに、請求項3の発明によれば、上記した編み糸を複数本集束して編組または撚り加工した棒状の中芯の外周全体を、ニット編みまたは編組体の補強被覆層によって被覆しているので、上述のような優れた封止機能に加えて、パッキン強度の大幅な向上を図ることができる。

[図面の簡単な説明]

第1図ないし第11図は、本発明の実施例を示し、第1図はグランドパッキンの第1実施例を示す斜視図、第2図はグランドパッキン用編み糸の一例を示す斜視図、第3図はグランドパッキンの第2実施例を示す斜視図、第4図はグランドパッキンの第3実施例を示す斜視図、第5図ないし第11図はグランドパッキン用編み糸の他の実施例を示す斜視図であり、また第12図ないし第15図はグランドパッキン用編み糸の従来例を示す斜視図である。

1……膨張黒鉛テープ

3……紐状体

3A~3C……折畳層

4……編み糸

10、10A……グランドパッキン

11……第1補強材

12……第2補強材

13……中芯

14……中芯の補強被覆層

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特許公報

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